清水建設 ✕ 北海道大学 コンクリート表層に塗布した含浸剤でCO2吸収を促進

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概要

清水建設と北海道大学が鉄筋の耐食性も向上し、CO2固定化とコンクリート長寿命化を両立できるDAC(Direct Air Capture)コートを開発したニュースを紹介。


清水建設株式会社(東京 以下、清水建設)と国立大学法人北海道大学(北海道 以下、北海道大学)は、環境配慮型コンクリートの研究開発の一環として、既設のコンクリート構造物を利用して大気からのCO2吸収を促進するCO2固定化技術「DAC(Direct Air Capture)コート」を開発しました。

DACコートは、表層に塗布した含浸剤を介してコンクリート構造物に大気中のCO2を吸収・固定化させるもので、CO2吸収量を含浸剤塗布前の1.5倍以上に増大させることができます。

含浸剤の主材となるアミン化合物は、CO2の吸収性能に加え、防食性能も有しているため、コンクリートの中性化に起因する鉄筋の腐食を抑制し、鉄筋コンクリートの長寿命化に寄与します。

DACコート開発の背景

温室効果ガスの排出を2050年までに実質ゼロにする目標を掲げた政府のカーボンニュートラル宣言を受け、建設業界では、主要建材であるコンクリート由来のCO2排出削減に向けた技術開発が加速しています。

そうした取り組みの多くは、製造時に多量のCO2排出を伴うセメントの使用量削減や、原材料へのCO2固定化など、生産段階における対策に主眼が置かれており、対象は新築構造物に限られます。

しかし、今回の技術開発では、供用段階の既設構造物のCO2吸収体としてのポテンシャルに着目し、CO2吸収性能の高いアミン化合物をコンクリート内部に含浸させることで、大気中のCO2の固定化を促進させることを企図しました。

DACコートの開発は、従来の鉄筋コンクリートに代わる次世代材料「ロジックス構造材の開発に向けた両者の産学共同研究の一環でもあります。

開発にあたっては、無数の材料からDACコートによるコンクリートへのCO2固定化に適した材料を分子レベルで探索し、コンクリート内での物質拡散を評価するシミュレーション技術を活用して長期的な反応過程を可視化しました。

資料引用:清水建設 DACコート概要図

DACコートを塗布するメリットとは

本技術の核となる含浸剤の主材は、発電所や工場の排ガスからのCO2分離・回収に利用されている塩基性化合物・アミンの一種で、鉄筋コンクリートに高い防食性を付与する性能も備えます。

一般的に、コンクリートにCO2を固定化すると、部材の中性化を招き、鉄筋が腐食するリスクが生じます。

今回の開発技術では、アミン化合物の防食作用により鉄筋の腐食速度を1/50に抑制することで、コンクリートの寿命を損なうことなくCO2の固定化を促進することが可能になります。

さらに、塩分に対する耐性も向上することが確認できており、鉄筋コンクリート構造物の長寿命化も実現できます。

日本国内におけるコンクリート構造物のストックは約300億トンと推計。
これらの露出部全体に本技術を適用した場合のCO2吸収ポテンシャルは3億トン以上に達します。

また、構造物の解体後に残るコンクリートガラへのCO2固定化技術としての活用も期待できます。

北海道大学と清水建設は、2026年頃の実用化をターゲットに、材料メーカーとも連携しながら、ラボでの性能評価、実大規模での性能実証、施工法の標準化やカーボンクレジット化の検討等を進めていく考えです。

おわりに

窒素元素をもつアミン化合物を主原料にするDACコート。

身近なイメージとして、マメ科の根に共生する根粒菌のはたらきを思い浮かべるのは、ライターの私だけでしょうか。

根粒菌は大気中の窒素をアンモニアに変換して窒素固定を行い、アンモニアはアミノ酸に変えられて、植物に送られる。植物は根粒菌に炭水化物を供給するといった共生窒素循環。

土壌の菌類の営みをコンクリートの中で再現したかのような二酸化炭素固定をする発想が北海道大学発というのも納得できる技術と感じました。

2026年頃の実用化にむけ、気になる点として、DACコートの塗布耐久年数がどのくらい期待できるか、広範囲への塗布手法はどのようにするかが普及のカギになるのではないでしょうか。

地政学的な要因がうずまく昨今の原材料調達の中で、カーボンニュートラルへの取り組みの中から新たな新素材の誕生を期待します。

本日も読んでいただき、ありがとうございました。


参照・説明

※アミン化合物
アミンは、窒素元素を持つ化合物の代表例です。アンモニアの水素原子を炭化水素基で置換した化合物の総称。置換した炭化水素基の数が1つであれば第一級アミン、2つであれば第二級アミン、3つであれば第三級アミンと呼ばれる。

このDACコートの主材は、「発電所や工場の排ガスからのCO2分離・回収に利用されている塩基性化合物・アミンの一種」とあるので、二酸化炭素吸収液の主剤と考えられる。
典型的に用いられるアミンとしては、モノエタノールアミン(MEA)、メチルジエタノールアミン(MDEA)、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール(AMP)、およびピペラジン(PZ/PIPA)などが挙げられる。

※ロジックス構造材
清水建設と北海道大学が次世代高性能材料の開発に向けた産学共同研究のなかで提唱するあらゆる現象を論理的に積み上げることによって得られる次世代向けの新素材のこと。
論理(Logic)と次世代(Next generation)を意味する英単語から、新素材の名称をロジックス(LogiX)として、商標を出願している。

参考・関連情報・お問い合わせなど

□清水建設株式会社 https://www.shimz.co.jp/
リリース記事:https://www.shimz.co.jp/company/about/news-release/2022/2022017.html

□国立大学法人北海道大学 https://www.hokudai.ac.jp/
リリース記事:https://www.hokudai.ac.jp/news/180711_pr.pdf

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