西松建設✕佐賀大学
高精度な画像を取得する水路調査ロボット(turtle)を開発。

sugitec

概要

西松建設株式会社(以下、西松建設)は、国立大学法人佐賀大学(伊藤研究室)と共同で、水路トンネル内における調査点検業務の省力化・効率化を図るために、自律走行式水路調査ロボット(turtle)を開発
本ロボットは、走行部にSLAM 技術を活用した制御システムを実装し、トンネル線形に沿ってトンネル中央を維持しながら自律走行します。本システムにより、水路トンネルの調査点検から記録までの一連の維持管理業務を大幅に軽減することが期待されます。リリースニュースの内容を見つめて参ります。

水路トンネルの調査点検業務を省力化・効率化

背景

水力発電所等の水路トンネルでは、国から3年に一度の調査点検が義務付けられており、その作業内容としてトンネル内部からの近接目視などによる覆工のひび割れなどの変状や漏水の発生状況の把握が求められます。

しかし、延長が数キロメートルにもおよぶ水路トンネルに人が進入しての作業は、点検者の安全や身体的負荷といったリスクだけでなくコスト・手間を要します。また、取得した情報を処理する作業にも時間と手間が掛かっているため、省力化・効率化が求められています。

そのような背景から、これまでにもドローン型、浮体型、飛行船型など、人の代わりに調査点検するロボットの開発が進められていますが、積載できる重量の制約から小容量のバッテリーしか搭載できないことで飛行時間が短かかったり、坑内の水流や風況条件によって機体の方向制御が困難であるなどの課題がありました。

自律走行式水路調査ロボットの概要

本ロボットは、自律走行可能な走行部と、各種カメラと照明およびバッテリーなどの計測部によって構成されています。走行部は、LiDARにより壁面との位置関係を把握して、トンネル線形に沿ってトンネル中央部を維持しながら自律走行します。

その上部に搭載した計測部の照明や計測カメラなどによってトンネル壁面の高精細な画像をくまなく取得します。

また計測部には、高解像度の計測カメラ5台をトンネル断面方向に対して半円形状に搭載することによって、トンネル壁面の高精細な画像を取得できます。

さらに同部の前後に、広角レンズのカメラを1台ずつ搭載することによって、本ロボットによる調査状況を撮影し、坑内の漏水や異常箇所を映像として記録することができます。

また取得した画像から、ソフトウェアによる画像解析によって3次元モデルを構築し、その後オルソ画像抽出・展開図の作成を行い、AI によるひび割れ自動検出(幅0.1mm以上)が行えます。

水路調査ロボットによる計測イメージ図

主な特徴

  • 直径6m程度、延長2km程度のトンネル内を調査点検可能
  • 微細なひび割れ(幅1mm 以上)の検出が可能
  • トンネル壁面の画像に加え、坑内状況(漏水など)を映像として記録するため、補修・改修計画の事前検討において基礎情報が収集可能
  • SLAM 技術の活用により、自己位置推定と環境地図作成が可能
  • AIによるひび割れ自動検出によって、検出結果の客観性の担保および点検者の変状抽出作業の負担を軽減

期待される効果

  • 目視点検で行っていたスケッチなどの記録作業が不要なため、作業要員の省人化、報告書類作成の効率化が図れます
  • 調査点検結果を3次元モデルや展開図により記録保存することで、前回調査結果と比較検討が可能となり、変状の経時的変化を把握でき、維持管理計画の立案をサポートします
  • 小断面トンネルなどの劣悪な作業環境において、点検者のリスクを低減できます

今後の展開

今後は、開発実績を踏まえ、更なる柔軟性の高いシステム構築を目指し、改良を図っていきます。
また、遠隔調査点検技術の構築と老朽化するインフラ点検業務におけるDXの実現を目指していきます。

① 取得画像の処理方法

② ひび割れ展開図の作成

資料引用:西松建設

おわりに

国内の水資源の年間利用状況は、合計で約800億立法メートルであり、用途別では、生活用水と工業用水を合わせた都市用水が約255億立法メートル、農業用水が約535億立法メートルに達しています(令和3年版日本の水資源の現況/国土交通省 水管理・国土保全局水資源部)。
産業には大量の水が必要です。「日本は水に恵まれた国」だが、水利用は堅固なインフラがあってこそ恩恵を受けています。

昨年の5月には愛知県豊田市で取水施設「明治用水頭首工」が大規模な漏水事故が発生、さらには、熊本市南区奥古閑町の天明新川にかかる農業用堰「松の木堰」が崩壊しています。
水路インフラの設備は全国的に老朽化が進み、破損しやすくなっているのが現代です。

私たちは、普段はほとんど意識しませんが、水路インフラが急に機能しなくなると、日常生活や産業活動に大きな影響が出ることを再認識しなければいけません。
そのためにも、人の目が届かない遠隔調査点検技術で老朽化するインフラ点検の進歩は欠かすことはできないのです。


参考・関連情報・お問い合わせなど

□西松建設株式会社
リリースニュース:
https://www.nishimatsu.co.jp/news/2023/turtle.html

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