記事のポイント
・国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構（以下、JAXA）と鹿島建設株式会社（以下、鹿島建設）は、月面での無人による有人拠点の建設を目指した「遠隔操作と自動制御の強調による遠隔施工システムの実現」の共同研究を2016年より進めている。
・共同研究では、2019年3月に鹿島の西湘実験フィールドにて自動化建設機械による実験を行い、2021年3月にはその成果の更なる発展型として遠隔での建設機械の操作と自動運転による施工実験を共同で行っている。
JAXAと鹿島A4CSEL®の共同研究
2019年3月の実験より、その発展型となった2021年3月の施工実験では、JAXA相模原キャンパスから1000km以上離れた「JAXA種子島宇宙センター衛星系エリア新設道路等整備工事」の建設機械を遠隔操作し、さらに相模原からの指令で自動運転に切り替えての作業を実施。結果、高精度での施工が可能であることが確認されたという。
出典：JAXA
地球外である月や火星に大勢の人を送り込むことは難しいと考えられることから、将来、長期滞在型の有人拠点を建設するには原則的に無人で施工することが想定されている。また、無人で施工する場合でも、地球からの指示は数秒単位の遅れが生じるため、操作の効率性や不具合が発生した場合の対処の必要性の観点から、時間遅れのある環境下でも作業が止まらないという技術が求められている。
JAXAでは、そのような環境下でも機械の衝突や干渉を事前予測し回避するとともに、効率的な操作を支援する遠隔操作技術の研究を続けているそうだ。一方、鹿島建設では建設機械の自動運転を核とした次世代の建設生産システムである「A4CSEL®（クワッドアクセル）」を開発。2015年から多くのダム工事に適用しているという。
そこでJAXAと鹿島は宇宙探査イノベーションハブの研究提案公募の枠組みのもとで、宇宙の拠点建設に向けた課題解決策として、JAXAが研究する遠隔操作技術に、鹿島建設のA4CSEL®開発から得た自動化施工技術を導入し、遠隔操作と自動制御の協調による遠隔施工システムの実現を目指し共同研究が進められてきた。
実験の概要は以下となる
実験では、JAXA相模原キャンパスと鹿島建設が施工するJAXA種子島宇宙センター衛星系エリア新設道路等整備工事の現場に設けられた実験エリアを公衆電話回線で接続し、遠隔操作と自動制御の協調による遠隔施工システムの実現を目指す目的で行われた。
出典：JAXA
地球から月面へ輸送した建設機械を建設予定エリアまで遠隔操作で走行させるという想定がされ、JAXA相模原キャンパス敷地内の宇宙探査実験棟の操作卓から現場の振動ローラを遠隔で操作。月面クレーター等を模擬した仮想の障害物を避けて移動する実験が行われた。この実験でJAXAが進めてきた遠隔操作技術の有効性が確認されたという。
また、拠点建設現場を想定したエリアでは、鹿島建設の開発した自動化施工システムA4CSEL®によって、自動運転に切り替えられた自動振動ローラによる転圧作業を行った結果、通信遅延に対応した操作支援、地形変化に対応した動作判断機能、建設機械の協調作業機能、遠隔操作から自動運転へのスムーズな切り替え操作が確認された。
出典：JAXA
これら実験の結果、1000km以上離れた場所からでも、また公衆回線による通信容量や通信遅延の制約がある場合でも、建設機械の操作性や安定性を損なうことなく遠隔操作が行えることが確認された。また、遠隔操作から自動運転への切り替え後、自動運転によるスムーズな施工を行うことができ、月面での有人による有人拠点建設の実現に繋がる成果が得られている。
今後はこの研究成果を活用し、JAXAでは将来の有人月面活動における遠隔操作・自動運転技術の実現を目指し、鹿島建設では、A4CSEL®を遠隔地から管制する遠隔自動化施工、及び災害復旧に適用される無人化施工システムで問題となる通信遅延による作業効率の低下を防ぐ技術に展開していくという。
□国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構（JAXA）
月面での建設機械の遠隔操作・自動運転を目指した遠隔施工実験の実施について
-JAXAと鹿島A4CSELRの共同研究-
リリース記事：https://www.jaxa.jp/press/2021/05/20210518-1_j.html
