大林組
雨水流出抑制効果とヒートアイランド現象緩和効果をもつ「ハイドロペイブ ライト™」を開発。

sugitec

概要

株式会社大林組(以下、大林組)と大林道路株式会社(以下、大林道路)は、透水性舗装と湿潤舗装を組み合わせることで、豪雨災害とヒートアイランド現象の2つの社会課題を解決する多機能舗装「ハイドロペイブ ライト」を開発という記事をみつめます。


民間気象予報会社のウェザーニュースが7月に発表した「ゲリラ豪雨傾向2022」では、ゲリラ豪雨の発生数は西日本や関東などで昨年よりも多くなる見込みで、東京ではおよそ800回の予想。
7月後半から9月前半にかけて発生しやすい時期が続くとみています。
2022年7〜9月のゲリラ豪雨は、全国でおよそ90,000回発生する予想です
発生総数はおよそ60,000回発生した昨年と比べると1.4倍、過去5年平均と比べると1.9倍で、今年はゲリラ豪雨の発生が多くなる見込みです。

※ “ゲリラ豪雨”発生回数の求め方
「ゲリラ豪雨」をもたらす雨雲・雷雲は、前線に伴って移動してくる雨雲とは異なり、“突発的”かつ“局地的”に発達するのが特徴です。
また、限られた数しか設置されていないアメダス(全国約 1,300 か所)では、全ての降雨を正確に観測することは困難です。そこでウェザーニュースでは、スマホアプリ「ウェザーニュース」のユーザーから寄せられた“ザーザー”以上の降雨報告と、その時の気象データの分析結果から、ユーザーがゲリラ豪雨と感じる雨の時間変化の基準値を求め、求めた基準値をもとにゲリラ豪雨をカウントしている。

詳しく見ると、西日本や関東周辺を中心に昨年よりも発生回数が増えて、佐賀県(2,000回)、大分県(2,300回)、茨城県(2,000回)など昨年比で3倍近くとなるところもある見込み。
その他の人口が多いところでは、東京で800回、愛知で1,000回、大阪で400回となる見込みで、いずれも昨年並の回数となる予想です。

雨雲の発生は山沿いがメインですが、平野部(都市部)にも流れ込んだり、直上で発生したりする場合があります。一回のゲリラ豪雨で激しい雨による道路冠水や低地の浸水、落雷による停電や交通機関への影響など様々な被害が懸念されます。
引用:ウェザーニュース https://weathernews.jp/s/topics/202207/040245/

年々激変する気象環境に、既存の道路インフラ機能をアップグレードする時が既に来ているのです。
本日は雨水を貯水する舗装を開発した大林組のリリースニュースをみつめます。

雨を貯水し、有効に活用する舗装

大林組と大林道路は、透水性舗装と湿潤舗装を組み合わせることで、豪雨災害とヒートアイランド現象の2つの社会課題を解決する多機能舗装「ハイドロペイブ ライト」を開発しました。

資料引用:大林組 ハイドロペイブ ライトの試験施工写真(透水性舗装には大林道路の研磨匠®を採用。通常より高級感のある舗装に仕上げています)

近年、地球温暖化や都市化などにより、豪雨災害や平均気温の上昇が社会課題となっています。
これらは、道路の冠水や地下街の浸水、熱中症患者の増加などをもたらすため、気候変動や自然災害に対するレジリエントなインフラ整備に対するニーズが高まっています。

今回、2社が開発したハイドロペイブ ライト」は、透水性舗装(軽交通道路※1)と湿潤舗装(歩道)を組み合わせた舗装です。「ハイドロペイブ ライト」上に降った雨は、主に透水性舗装の路面から浸透し、貯水容量が大きな路盤内に貯水されるため、豪雨時の雨水の流出量を減少させ、下水施設などに一気に雨水が集まることを抑制します。
透水性舗装の路盤に貯水された雨の一部は湿潤舗装に導水され、路面から蒸発します。
このとき、路面や周囲から熱が奪われるため、歩行者に涼しい環境を提供するとともに、ヒートアイランド現象を緩和します。

資料引用:大林組 「ハイドロペイブ ライト」の断面図(雨水の動きを丸数字で示しています)

「ハイドロペイブ ライト」の特長は以下のとおりです。

雨水流出抑制効果
「ハイドロペイブ ライト」の透水性舗装には、ポーラスコンクリートに約20%、路盤に約40%の空隙があるため、多量の雨を貯めることができます。
また、湿潤舗装内でも、砂層の空隙内に雨を貯水できます。

一般的な透水性舗装※2と同条件の道路(車道幅員5m、歩道幅3m、長さ1km、舗装厚35cm)で比較した場合、約2.1倍の雨を貯めることができ、下水施設への流出時間を遅らせ流出量を減少させるため、雨水流出抑制効果が高まります。

ヒートアイランド現象の緩和
「ハイドロペイブ ライト」は一般的なアスファルト舗装に比べて、夏季の路面温度を透水性舗装で最大12℃、湿潤舗装で最大23℃低下させます。

雨が路盤内に貯水されている期間中、湿潤舗装の路面から雨水が蒸発するため、降雨後も暑熱緩和効果を発揮します。
試験施工地では、降雨後に最大6日間、雨水が路盤内に貯水されたことを確認しました。

大林組と大林道路は、今回開発した「ハイドロペイブ ライト」を軽交通道路に適用することで、豪雨災害とヒートアイランド現象の2つの社会課題を解決し、災害に強く、人々が快適に暮らせるまちづくりに貢献します。また、今後は、一般道路への適用も視野に入れ、さらに開発を進めていきます。


※1 軽交通道路
大型自動車が侵入せず、主に普通自動車以下の通行(300台/日未満)および駐車場に使用される道路。コンクリートの曲げ強度は歩道(管理用車両の乗り入れ有り)の規格値である2.5N/mm²以上
※2 一般的な透水性舗装
「公益財団法人 日本コンクリート工学会(2015)性能設計対応型ポーラスコンクリートの施工標準と品質保証体制の確立研究委員会 報告書」の「表-3.2.2.1 舗装の断面と単位空隙貯留量の算出」を参考に計算


雨水を浸透させる舗装道路。
ほかに副次的な効果に、車両の走行時のスリップ現象も減少できるのかもしれませんね。

ライターはこのリリースニュースを拝見して、「雨庭」をふと思い出しました。
伝統的な寺院の枯れ山水で雨水の処理方法の「雨庭」です

2018年の毎日新聞の記事では、九州産業大学や京都大学らの研究グループが、京都市上京区にある相国寺(しょうこくじ)の枯れ山水庭園を調査したところ、総雨量で430ミリが降っても貯水できる機能があることが分かり、浸透機能を加えると2倍の雨が降っても処理できる可能性があるという。

ここで「雨庭」については、わかりやすくまとめてある京都市のサイトから引用します。

「雨庭」について

「雨庭」は、地上に降った雨水を下水道に直接放流することなく一時的に貯留し、ゆっくりと地中に浸透させる構造を持った植栽空間です。

アスファルトなどに覆われた都市空間では、地上に降った雨はほとんど地中に浸み込むことなく排水されていきます。
雨庭は、道路上に溢れる雨水を一時的に溜めることで氾濫を抑制し、地下水を涵養することで健全な水循環に貢献します。
また、このような雨水流出抑制の効果に加え、修景・緑化、水質浄化、ヒートアイランド現象の緩和などの効果も期待されることから、近年広まりつつある「グリーンインフラ」の一つとして注目されています。

※グリーンインフラとは
社会資本整備や土地利用等のハード・ソフト両面において、
自然環境が有する多様な機能(生物の生息・生育の場の提供、良好な景観形成、気温上昇の抑制等)を活用し、持続可能で魅力あるまちづくりを進めようという考え方。

資料引用:京都市 雨庭のイメージ

雨水を地中に浸透させやすくするため、植栽の周辺に、砂利などを敷き詰めた「州浜」を設けています。砂利などは、深いところで約50cmの厚みがあり、砂利の隙間に雨水を一時的に貯留しておくことができます。
また、四季を感じられるよう、様々な植栽も植えられています。

資料引用:京都市

道路の縁石の一部を「穴あき」のブロックに据え替えることで、歩道上や直接雨庭内に降った雨水だけでなく、車道上に降った雨水も雨庭の中に取り込みます。

雨庭の雨水流出抑制機能

特徴1 :集水
水が浸透しない舗装面などに降った雨水を集める。

特徴2 :貯留
集めた水を一時的に貯める浅い窪地などを備えている。

特徴3 :浸透
貯めた水をゆっくりと地中に浸透させる。

水害の解決に向けた提案としての雨庭

近年、ヒートアイランド現象や豪雨などによる水害が問題となっています。
ヒートアイランド現象は、郊外に比べ、都市部での気温が高くなる現象のことです。
都市部では暖められたコンクリートなどによる空気の加熱、建物などからの排熱などにより、昼夜を通して気温が高い状態が続きます。
また、近年の豪雨は下水道の処理能力を超え、河川への排水ができずに各地で冠水などの被害をもたらすことが珍しくなくなってきています。

以上のような問題を解決する一つの形が雨庭です。
雨庭は、水が浸透しない道路などの舗装された場所に降った雨水を集め、一時的に貯める浅い窪地などを備え、土壌にゆっくりと浸透させる仕組みを持ちます。更に、デザイン性を兼ね備え、街中では身近な庭園として楽しむことができるといった側面も持ちます。

おわりに

このように、雨水を浸透させる舗装「雨庭」の機能的な関係性を考えてみると、「人工の暗渠」と「見えない池」という関係が見えて来ませんでしょうか?
この組み合わせは、今後の都市部における道路インフラ整備のモデルケースになる力を秘めていると思います。

しかしながら・・・・

この「雨庭」は京都御所の入り口に敷設されていますが、動画のごとく7月の豪雨では許容量をオーバーしている。
古来からの庭師の知恵を凌駕する降雨量が普通になる今、道路インフラを含めた都市治水の改善が各地で求められています。


参考・関連情報・お問い合わせなど

株式会社大林組
大林組 コーポレート・コミュニケーション室広報課
リリースニュース:
https://www.obayashi.co.jp/news/detail/news20220902_1.html

京都市
https://www.city.kyoto.lg.jp/kensetu/page/0000291580.html

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