大林組✕ギリア 断面設計を自動で行う構造設計支援AIプログラムを開発。

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株式会社大林組(以下、大林組)が、構造設計業務の一部である「断面設計」を効率化するため、構造設計者が長年にわたり蓄積してきたノウハウを数式化し、断面設計を自動で行う構造設計支援AIプログラムを開発というリリースニュースをおとどけします。

AIによるアシストで解析業務の効率化と最適な設計提案に貢献

開発の背景

構造設計者は、建築物の耐震性や経済性、施工性など多様な性能要件を満たすため、建築計画に合致した架構の形状や、梁や柱などの部材の配置やサイズを決定する役割を担います。
特に「断面設計」と呼ばれるプロセスでは、構造の安全性や機能性、美観などを考慮しながら、地震などによる荷重に耐える部材形状やサイズを決定するため、試行、構造解析、評価を何度も繰り返す必要があります。従来の設計では、設計者の構造力学の知識と経験に基づいて行われ、設計の深度化や設計変更のたびに多大な手間がかかっていました。

ギリア株式会社(以下、ギリア)の協力を得て開発した本プログラムは、こうした反復作業を自動化し、基本設計から詳細検討を行う実施設計にかけて支援することで、構造設計者はより多くの時間を別案の検討や改良へ振り向けることが可能になります。

AIプログラムを利用した構造設計フロー

本プログラムの構成、特長

クラスタリング活用で構造部材のグルーピングを効率化し、速やかなプラン検討を支援

構造設計者は、断面設計時、構造部材の長さや地震などにより部材に生じる力などの多様なパラメータによって、部材のグルーピングを行います。
本プログラムは、教師なし学習の一つであるクラスタリング(※1)によって、自動的にグルーピングを行います。

構造設計者は、グループ数を自由に設定できるため、コストや施工性などプロジェクトごとの要件を反映した最適な配置計画を立案できます。この機能により、複雑な構造設計においても迅速かつ柔軟な設計が可能です。

長年のノウハウを数式化したルールベースAIにより、高速かつ合理的な断面設計を実現

本プログラムは、大林組の構造設計者が長年にわたり蓄積してきたノウハウをルールベースAI(※2)によって数式化し、各構造部材に要求される性能を整理します。
また、数理最適化手法(混合整数形計画法)(※3)を活用し、短時間で最適な構造部材の断面を提案します。さらに、個々の部材だけではなく、構造骨組全体のバランスを同時に考慮することで最適な断面形状を導き出します。

ルールベースAIで数式化された熟練した構造設計者の知見と、数理最適化手法による最適なアルゴリズムを組み合わせた本プログラムは、迅速かつ合理的な断面設計を実現し、従来は数時間要していた計算を数分程度で処理します。

AIによる設計プロセスの可視化で広がる、構造設計者の視点と建物特性の理解

本プログラムは、AIが一貫構造計算ソフトの算定結果をもとに部材断面を再検討する過程(再検討理由や発生数)や部材重量の変化を可視化します。これにより、構造設計者はAIが導き出した最終結果だけでなく、設計の過程を一目で把握できるため、想定と異なる結果が出た際にも、迅速に理解することができます。
この過程の可視化は、構造設計者の視点を広げ、建物特性への理解が深まり、部材断面の最適化にとどまらず、構造計画全体を向上させる手助けになります。

AIのアシストによるスムーズな設計検討によって、従来1週間を要していた断面設計を1日に短縮できるようになります。この結果、構造設計者は手戻り作業から解放され、価値向上に向けた創造的な作業に専念できるようになります。

プログラムの構成イメージ

今後の展望

本プログラムは、現時点では鉄骨造建物を対象としていますが、今後は鉄筋コンクリート造や混合構造への適用を順次進めます。また、設計プロセス全体を通じたAI活用を促進し、構造設計者のニーズに沿った新機能の開発・導入を図ります。

大林組はAI技術を活用し、発注者や社会の多様なニーズに応える提案を続け、安全・安心な建築物の提供に貢献します。

※1 クラスタリング
機械学習における教師なし学習の一種。データの類似度に基づいてグループ分けを行う手法

※2 ルールベースAI
人間が設定したルールをベースにAIが作業を行う人工知能技術

※3 数理最適化手法(混合整数形計画法)
設定した問題に対し、数学モデルを利用して制約条件のもとで最適な解を導き出す手法

資料引用:大林組

おわりに

この「ルールベースAI」について、少し深堀してみましょう。

ルールベースAIは、あらかじめ設定された「もし~ならば、~する」といった明確なルールや条件に基づいて動作する人工知能の一種です。
近年、機械学習や深層学習といったデータ駆動型のAIが注目されていますが、ルールベースAIもその特性から様々なサービスやIoT機器で引き続き活用されています。

ルールベースAIの主な特徴

高い透明性と説明責任:
判断の根拠がルールとして明確なため、なぜその結論に至ったのかが追跡しやすく、説明責任が求められる分野で有利です。

予測可能性と安全性:
定義されたルールに従って動作するため、未知の状況でも一定の予測可能性を保て、安全性が重視されるシステムに適しています。

開発・導入コストの抑制:
ルールが明確であれば比較的簡単に構築でき、初期コストを抑えやすい傾向があります。

限定的な適用範囲:
ルールが定義されていない状況や、複雑で多様なパターンを扱う場合には不向きです。

ルールベースAIを利用したサービス

現在、以下のようなサービスでルールベースAIが活用されています。

1.チャットボット・カスタマーサポート:

FAQ対応:
顧客からの定型的な質問(例:「営業時間」「送料」など)に対して、あらかじめ用意されたルールに基づき自動で回答します。

予約・申し込みシステム:
必要な入力項目が決まっている場合に、ユーザーの回答に応じて会話を分岐させ、予約や申し込みを完了させます。

ハイブリッド型チャットボット:
単純な問い合わせはルールベースで対応し、複雑な問い合わせは機械学習型AIや有人対応に切り替えるシステムも増えています。

2.金融サービス:

ローン承認プロセス:
顧客の信用情報や収入、過去の履歴などのルールに基づいて、ローンの承認可否を判断します。

不正検知:
特定の取引パターンや金額、時間帯などのルールに合致する場合に、不正の可能性を検知しアラートを発します。

3.医療診断支援システム:

専門家の知見や膨大な医学知識をルールとして内包し、医師の診断をサポートします。
特に、明確な診断基準がある疾患のスクリーニングなどで活用されます。

4.スパムメールフィルタリング:
特定のキーワード、送信元、添付ファイルの有無などのルールに基づいて、スパムメールを自動的に識別し、迷惑メールフォルダに振り分けます。

5.ビジネスプロセス自動化 (RPA):
定型的な事務作業やデータ入力など、明確な手順のある業務をルールに基づいて自動化します。

6.製造業の品質管理:
製品の仕様(サイズ、形状、色など)に関する厳密な基準をルールとして設定し、それに合致しない製品を自動的に検出します。

ルールベースAIを利用したIoT機器

IoT機器においても、エッジ側での迅速な判断や、ネットワーク負荷の軽減、プライバシー保護の観点からルールベースAIが活用されています。

1.スマートホーム機器:
スマート照明・空調:
「部屋に人がいなくなったら照明を消す」「室温が28℃を超えたらエアコンをつける」など、センサーデータと連動したシンプルなルールで動作します。

スマートセキュリティカメラ:
「特定のエリアに動きを検知したら録画を開始し、アラートを送信する」といったルールに基づき、監視を行います。

2.スマートファクトリー・産業用IoT:

異常検知・予知保全:
センサーデータ(温度、圧力、振動など)が特定の閾値を超えた場合に、機器の異常を検知し、メンテナンスの必要性を通知します。

品質検査装置:
製造ラインで製品の外観や寸法が、あらかじめ定められた基準を満たしているかルールに基づいて検査し、不良品を排除します。AI外観検査システムでは、ルールベースと機械学習を併用するケースも多いです。

3.スマート農業:

自動水やりシステム:
土壌の湿度センサーが一定値を下回ったら自動で水を撒く、といったルールを設定できます。

環境制御システム:
温室内の温度、湿度、CO2濃度などが設定値から外れた場合に、換気扇やヒーターを自動で稼働させます。

ルールベースAIの現在と今後の展望

近年、機械学習や生成AIの発展が著しいですが、ルールベースAIが決して時代遅れになったわけではありません。
むしろ、以下のような形でその価値が見直され、活用が進んでいます。

明確な判断基準が求められる分野:
医療、金融、法務など、高い透明性と説明責任が求められる分野では、その特性から引き続き重要な役割を担います。

機械学習との組み合わせ(ハイブリッドAI):
複雑な問題には機械学習を、明確なルールで対応できる部分にはルールベースAIを適用することで、それぞれの長所を活かし、より高性能で安定したシステムを構築する「ハイブリッドAI」が注目されています。

効率的なプロトタイプ開発:
機械学習に十分なデータがない場合や、迅速なシステム構築が必要な場合に、まずルールベースでプロトタイプを開発し、徐々に機械学習を導入していくアプローチも有効です。

ビジネスルール管理システム (BRMS):
企業の複雑なビジネスルールを一元的に管理し、変更に柔軟に対応できるシステムとして、ルールベースAIの技術が活用されています。
これにより、ビジネスの変化に迅速に対応し、DXを推進することが可能になります。

このように、ルールベースAIは単独で利用されるだけでなく、他のAI技術と組み合わせることで、より幅広い分野で効果的に活用される「AI」と言えるでしょう。


参考・関連情報・お問い合わせなど

□株式会社大林組
コーポレート・コミュニケーション室広報課
リリースニュース:https://www.obayashi.co.jp/news/detail/news20250624_1.html

□ギリア株式会社
リリースニュース:
https://ghelia.com/news/20250626/

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