大成建設株式会社(以下、大成建設)と大日本塗料株式会社(以下、大日本塗料)が、塗るだけで建物の断熱化が可能な水性塗料「ZERO-eコート」※1を、日本大学生産工学部建築工学科・永井香織教授の指導・評価を得て共同で開発というリリースニュースをおとどけします。
塗るだけで建物を断熱化し、エネルギー消費を低減
本塗料は、一般塗料や遮熱塗料と併用が可能な中塗り用水性塗料※2で、高い断熱性能と耐候性を備えています。新築はもちろん、既設建物の改修においても使用することができ、建物内部への熱影響を抑え、エネルギー消費量を効果的に低減することが可能となります。
近年、地球温暖化の影響が深刻化する中、脱炭素社会の実現にむけて、建設分野でもさまざまな取り組みがすすめられています。
特に、オフィスビルや住宅等で使うエネルギーを削減する省エネ技術と太陽光等の再生可能エネルギーを利用した創エネ技術を組み合わせた、ゼロエネルギービル(ZEB:Net Zero Energy Building)の普及を目指す動きが加速しています。
建物のZEB化を推進する上で重要な要素となる一つが、建物自体の断熱性能の向上です。
特に夏季には外気温の上昇に伴い室内の冷房需要も増大するため、建物の断熱性能を高めることで空調設備の負荷を抑え、消費エネルギーを削減する効果が得られます。
こうした中、既存建物の断熱性能を向上させる工法として一般的な内断熱工法(建物内側から壁や天井を改修する手法)がありますが、工事期間中の建物使用が制限されることや、施工時の臭気・粉塵の発生といった課題がありました。
そこで大成建設と大日本塗料は建物外部から塗装することで断熱性能を高め、省エネ化を実現する手法に着目し、外壁用の新たな中塗り用水性塗料「ZERO-eコート」を開発しました。
本塗料は、軽量でありながら高い圧縮強度と優れた断熱性能を併せ持つ素材「中空ガラスビーズ」を採用しています。
従来、このビーズを多量に配合すると、断熱性能は向上する一方で、塗料全体の安定性や耐候性が低下するといった懸念がありましたが、大日本塗料の塗料材料の調合を制御する独自技術を駆使し、中空ガラスビーズの組成に類似した樹脂を用いて塗膜内を高密充填化する技術を確立しました。(図1参照)本塗料は中塗り用として使用し、また、一般塗料や遮熱塗料との組み合わせが可能で、高耐候性が要求される外装仕上げ面にも適用できます。その結果、建物内部への熱の影響を抑制でき、本塗料の優れた断熱効果から建物で消費するエネルギー消費の削減に貢献します。

図1 本塗料による断熱の仕組み
「ZERO-eコート」の特長は以下のとおりです。
1 優れた断熱性能を発揮
本塗料の断熱性能を評価するため、塗料材に熱が伝わる性能を示す熱伝導率※3を測定するとともに、日本産業規格であるJIS K 5603(塗膜の熱性能―熱流計測法による日射吸収率の求め方)に基づく断熱性能評価試験を実施し、既存製品を上回る断熱性能を有することを確認しました。(表1参照)

表1 他製品との断熱性能比較 ■他社品との断熱性能比較データ(ホットディスク法※4に基づく測定結果)
2 塗料の配合調整により不燃性能を保持
一般的な外壁用塗料は有機質成分を含み、燃えやすい傾向があります。本塗料は不燃素材の併用および有機質成分を削減する配合調整によって不燃性能を有しており、今後、建築基準法に基づく不燃材料として国土交通大臣の不燃認定を取得する予定です。
3 既存の塗料器具で施工が可能
本塗料は、ローラ、コテを用いた塗装や、吹き付けなど既存の塗装器具による施工が可能で、特別な器具などを用意する必要はありません。
4 建物を供用中でも施工が可能
本塗料は外壁塗装材として使用できるため、建物が供用中でも施工可能であり、建物利用者に影響を与えることなく、建物の断熱化を実現できます。
今後、大成建設と大日本塗料は、本塗料の不燃認定の取得に向けた取り組みを進めるとともに、さらなる断熱性能の向上にむけた実証および技術開発を継続してまいります。
あわせて、これまで断熱改修が困難であった既存建物への適用を通じて「ZERO-eコート」の普及展開を図り、建物の省エネルギー化を推進することで、脱炭素社会の実現に貢献してまいります。
※1
ZERO-eコート:商標登録6934478/区分02
※2
断熱性能を有する中塗り用水性塗料:特許出願中(特願2024-108856)
※3
熱伝導率:熱をどのくらい伝えるかを表す割合。熱伝導率の数値が小さいほど熱が伝わりにくく、断熱性に優れている。
※4
ホットディスク法:国際規格に準じた計測方法で、検出する試料に挟み込まれたセンサーから一定の電流を流して発熱させ、センサーの温度上昇から試料の熱特性を計測する。
ISO 22007-2 "Plastics-Determination of thermal conductivity and thermal diffusivity-Part2:Transient plane heat source(hot disc)method"
資料引用:大成建設
おわりに
しかし…ライターとしては、夏季休暇前に飛び込んできた大成建設による東洋建設の買収提案は建設業界再編をにおわせましたね。
この大型M&Aがもたらすであろうシナジー効果を、3つの主要な視点から考察すると以下の様な感じでしょうか。
事業ポートフォリオの強化:陸と海を跨ぐ総合力
大成建設は、超高層ビルやダム、高速道路といった陸上インフラプロジェクトにおいて、国内トップクラスの実績と技術力を有しています。
一方で、東洋建設は、海上空港や港湾施設、海底トンネルといった海洋土木分野(マリコン)において、独自の技術と豊富なノウハウを蓄積してきました。
この両社の強みが融合することで、事業ポートフォリオは飛躍的に拡大します。
陸上から海上まで、あらゆるインフラ建設に対応可能な体制が整い、より複雑で大規模なプロジェクトの受注競争力が向上するでしょう。これは、建設業界における新たな「オールラウンドプレイヤー」の誕生を意味します。
技術・ノウハウの相互補完:イノベーションの加速
東洋建設が持つ海洋土木技術は、今後の成長が期待される洋上風力発電市場において極めて重要な資産となります。
大成建設が持つ大規模プロジェクト管理能力や、最新のデジタル技術(BIM、IoTなど)と東洋建設の専門技術が結びつくことで、より効率的かつ革新的な施工方法が確立される可能性があります。
また、東洋建設も大成建設の持つ高度なプロジェクトマネジメントや、ITを活用した生産性向上ノウハウを共有することで、業務効率化やコスト削減が見込まれます。
これは、単なる企業規模の拡大に留まらない、技術的イノベーションの加速に繋がります。
経営資源の効率化とコスト競争力の向上
M&Aの重要な目的の一つである経営資源の効率化も、大きなシナジー効果として期待されます。
資機材の共同調達による購買コストの削減、管理部門の統合による間接費の削減、両社の国内外の営業ネットワークの活用による営業力強化など、さまざまな面でコスト効率の向上が見込めます。
これらのシナジー効果が計画通りに実現すれば、両社の企業価値は高まり、建設業界における競争優位性はさらに強固なものとなるでしょう。今回の買収提案は、日本の建設業界の再編を象徴する重要な動きとして、今後の動向から目が離せません。
このM&Aが日本のインフラ建設にどのような変革をもたらすのでしょうか
そして、東洋建設の筆頭株主ヤマウチ・ナンバーテン・ファミリー・オフィス(YFO)はどう動きをみせるのか?
参考・関連情報・お問い合わせなど
□大成建設株式会社
リリースニュース:
https://www.taisei.co.jp/about_us/wn/2025/250807_10562.html