株式会社熊谷組(以下、熊谷組)は、洋上風力エネルギー開発をはじめとするあらゆる水インフラの施工の無人化・自動化や持続可能な維持管理を目指した、総合的な水中遠隔操作システム「AquaMarionette®(アクアマリオネット)」の開発を進めており、その一環として実証試験を実施というリリースニュースをおとどけします。
水中遠隔操作システム「AquaMarionette®」
そして、本試験において、水深32mの過酷な海底環境でありながら、数cmレベルの高精度な水中絶対座標計測、および構造物フレームの繰り返し接合に成功。
開発背景
港湾、海洋、河川、ダムなどの水中施工現場では、深刻な労働力不足が続いており、さらに大深度下での高水圧や危険を伴う潜水作業の安全性確保が喫緊の課題となっています。
特に、これらの現場においては、主に2つの大きな技術的な障壁が存在しています。
位置計測の難易度:電波が届かない水中では、陸上のGNSS(衛星測位)のような位置把握が難しく、重機や構造物を設計通りにミリ・センチ単位で正確に配置するための「絶対座標」の計測手法がありませんでした。
藻類やプランクトンの発生、化学物質等の影響、あるいは土砂の巻き上げなどが複雑に絡み合う水中(海洋・ダム)では、著しい視界不良(低透明度環境)が生じやすく、従来のカメラ映像に頼った遠隔操作は困難を極めます。
これまでは潜水士による目視や手作業に頼らざるを得なかったこれらの過酷な環境下で、安全かつ確実な水中無人遠隔施工を実現するため、熊谷組は「AquaMarionette®(アクアマリオネット)」の開発を進めてまいりました。
実証試験の概要と成果
この度の試験は、浮体式風力発電システムの施工上の課題である高精度水中測位のために、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託業務「浮体式洋上風力発電の導入促進に資する次世代技術の開発」の一部として実施いたしました。
実環境に近い陸地から約300m沖合の台船上から、大深度海域(水深32m)において実証試験を行い、浮体式風力発電をはじめとする海洋工事等への幅広い現場への適用を可能にする以下の画期的な成果を上げました。
数cmレベルの水中絶対座標計測(視界ゼロでも施工可能)
潮流や波浪による水上浮体(台船)の揺れや濁水を想定した環境下において、独自の計測技術を用いて水中ロボットの絶対座標を数cmの誤差に収める極めて高い精度でリアルタイムに計測できることを実証しました。
これにより、目視が困難な水中でも、設計データ通りに正確な掘削や施工を行うベースが確立されました。
1.6m×1.6mフレームの繰り返し接合(高い再現性と確実性の実証)
激しい水圧や潮流の影響を受ける水深32mの海底固定点に対し、構造物フレームを精密に接合することに成功しました。本試験は日を変えて複数回にわたり実施され、いずれも高い再現性をもって確実な接合に成功しています。
これにより、浚渫重機の確実な位置誘導や、水インフラとなる水中構造物の遠隔組み立てが環境変化に左右されず実施できる、極めて高い制御能力と安定性を証明いたしました。

図1 水中接合位置誘導の全体配置図

図2 水深32mの水中固定点への水中接合位置誘導イメージ

写真1 水中固定点(着底フレーム)の水中投下状況

写真2 ROVを接合した水中フレームの水中投下状況

図3 AquaMarionette®による水中接合位置誘導状況

図4 AquaMarionette®の水中接合位置誘導

図5 AquaMarionette®での水中接合状況
今後の展望
今回の「数cm精度での絶対座標計測」と「確実な水中遠隔接合」の成功は、危険を伴う潜水作業を大幅に低減し、これまで困難であった大深度・濁水エリアでの「完全無人化・自動化施工」の実現を劇的に加速させるものです。
今後は、洋上風力発電などの海洋インフラ建設工事、さらには実際のダム湖や河川の浚渫工事への適用を視野に入れ、日本の重要な水資源および海洋インフラの持続可能な発展に貢献してまいります。
本成果は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の次世代浮体式洋上風力発電システム実証研究「ダブルドーナツ・スパー型浮体式風力発電システムの研究開発」JPNP14022 の一環として得られたものです。
資料引用:熊谷組
おわりに
「熊谷組」と聞けば、映画『黒部の太陽』に象徴されるような、難工事の山岳トンネルを果敢に切り拓いてきた「陸の大深度土木」を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。
しかし、今回発表された水中遠隔操作システム「AquaMarionette®(アクアマリオネット)」の実証実験成功は、同社が「山」で培った技術力を携え、「海・水インフラ」という新たなフロンティアへ本格的に舵を切ったことを鮮烈に印象付けるものでした。
今回の取り組みは、単なる「建設業界の人手不足への対策」という枠組みにとどまりません。その背景には、時代の変化に伴う3つの大きな業界事情と戦略が存在します。
- 巨大市場「洋上風力発電」と「水インフラ再生」への参入
脱炭素社会の切り札として国が注力する「浮体式洋上風力発電」や、老朽化が進む国内ダム・河川の「再開発・浚渫(しゅんせつ)工事」。これら今後数十年にわたり巨額の投資が見込まれる市場は、いずれも「大深度の水中環境」が舞台です。成長市場へのシフトは、ゼネコンとして持続的な成長を遂げるための極めて合理的な選択と言えます。
- 「過酷環境×遠隔施工」というコア技術の水平展開
崩落の危険と背中合わせの暗闇で重機を遠隔操作するトンネル工事と、高水圧で視界ゼロの海底で構造物をミリ・センチ単位で組む水中工事。一見異なる世界に見えますが、本質は「人が入れない過酷な環境を、データとロボティクスでいかに克服するか」という共通の課題に行き着きます。山で磨き上げた「施工DX」のノウハウを、そのまま水中に応用したのが今回のシステムなのです。
- 高度なテクノロジーによる差別化
従来の海洋土木(マリコン)と正面から競うのではなく、「視界ゼロでも数cm精度で測位し、自動・遠隔で接合する」という最高難度の技術パッケージに特化することで、市場での独自の立ち位置(ブルーオーシャン)を確立しようとしています。
かつて、日本の高度経済成長を影で支え、人知の及ばない山々を切り開いてきた建設技術。
その遺伝子は今、環境問題やインフラ老朽化という新たな課題に直面する現代において、「深海」という過酷な領域を攻略するテクノロジーへと進化を遂げました。
「濁水でも視界を必要とせず、潜水士に頼らずとも正確に施工できる」未来。それは建設現場の安全性を劇的に高めるだけでなく、日本のエネルギーと水インフラの持続可能性を支える大きな一歩となるはずです。山から海へと舞台を変え、技術で未来を拓く熊谷組の次なる挑戦に期待します。
【リリースニュース配信元】
□株式会社熊谷組 経営戦略本部広報部
リリースニュース:https://www.kumagaigumi.co.jp/news/2026/pr-20260727-004315.html
電話:03-3235-8155