日本の社会インフラは今、未曾有の危機に直面しています。
高度経済成長期に集中的に整備された道路、鉄道、橋梁、トンネルが一斉に耐用年数を迎えつつある一方で、労働人口の減少に伴う点検現場の人手不足は深刻さを増すばかりです。
このような背景の中、2026年6月17日、東証グロース上場の株式会社エムビーエス(以下、エムビーエス)から、インフラ監視の常識を覆す極めてエポックメイキングな発表が行われました。
同社が持つ独自のコーティング技術と、電子部品大手・株式会社村田製作所(以下、村田製作所)のRFID技術を融合させた、世界初の「状態・異常検知システム」の共同開発および特許出願のリリースニュースをお届けします。
本記事では、この革新的な技術のメカニズム、開発の背景、そしてインフラ業界に与える破壊的なインパクトについて、深掘り解説します。
従来のインフラ点検・センサー監視が抱える「3つの壁」

この新技術の凄みを理解するためには、まず現在、日本全国の現場が直面しているインフラ点検の限界を知る必要があります。
国や自治体が国土強靭化を進める上で、構造物の健全性を維持するためのモニタリング技術の導入は急務とされてきましたが、従来の選択肢には常に「3つの高い壁」が立ちはだかっていました。
第一に「コストと作業負荷の壁」
従来の点検手法は、熟練の作業者が現地に赴き、近接目視やハンマーによる打音検査を行うことが中心でした。
特に橋梁の裏側や高速道路の高架などの高所・難所では、大型の高所作業車を手配したり、大規模な足場を設置したりする必要があり、
1回の点検にかかる費用と労力は莫大なものになっていました。
第二に「地理的・安全性の壁」
高所だけでなく、狭隘な場所、河川・海洋に面した水辺、あるいは激しい交通規制を伴う幹線道路や鉄道網の近くなどでは、点検作業そのものが作業員を大きな危険に晒すことになります。安全確保のためのコストがさらに膨らむだけでなく、作業効率の低下を招いていました。
第三に「既存のセンサー監視におけるメンテナンスの壁」
「人が行けないなら、センサーを設置して常時監視すればいい」というアイデアは古くからありました。しかし、従来の精密なひずみゲージや電子センサーは、動作させるための「電源設備(または電池)」や、データを処理して送信するための「複雑な外部信号処理装置」が必要不可欠でした。過酷な屋外のインフラ環境において、定期的な電池交換や配線トラブルのメンテナンスを行うことは、結果として膨大な運用コストを発生させ、「低コストで長期間の常時監視を行う」という理想の実現を阻んでいたのです。
逆転の発想 「割れたら知らせる」村田製作所のパッシブRFID
これらの課題を根本から解決するために持ち込まれたのが、電子部品の世界的巨頭である村田製作所の「パッシブ型RFID技術」を応用した検知デバイスでした。ここにインフラDXを推し進めるための素晴らしい「引き算の発想」が隠されています。
一般的なIoTセンサーは、「ひずみの数値をリアルタイムで連続計測し、その変化量を送信する」という足し算の設計をします。しかし、村田製作所が開発したデバイスは、あえて連続的な数値を計測することを捨て、「異常があるかないか(0か1か)」の判定に完全に割り切りました。
具体的には、非常に繊細なガラス管の内部にRFIDタグ(個別の識別番号を持つ電子チップ)を封入したシンプルな構造をしています。このRFIDタグは「パッシブ型」と呼ばれるもので、リーダー(読取機)から照射される電波をエネルギーに換えて駆動するため、センサー側に電池や外部電源、配線が一切不要という驚異的な特徴を持っています。
通常時はリーダーからの電波に対して正常に応答を返しますが、構造物に一定以上のひび割れや変位(ズレ)が発生すると、その応力がガラス管に伝わり、ガラス管が破損します。ガラス管が破損すると、内部のRFIDタグの通信特性が変化(または途絶)します。リーダー側はこの「応答の途絶・変化」を無線でキャッチすることで、「ここに規定値以上の異常が発生した」と判定するのです。「物理的に壊れることで異常をデジタルに伝える」という、コロンブスの卵のような逆転の発想がベースになっています。
デバイスの実装を可能にした、エムビーエスの「スケルトン技術」
しかし、どれほど理論が素晴らしくても、そのままでは現場で使えませんでした。村田製作所のガラス管デバイスは極めて繊細であり、「屋外のゴツゴツしたコンクリート表面にどうやって何十年も安定して固定するのか」「雨風や紫外線、塩害からどうやって保護するのか」という、実装上の大きな課題が残されていたのです。
この課題を完璧な形でクリアしたのが、リフォーム・リノベーションのプロフェッショナルであり、独自の機能性コーティング技術を持つエムビーエスでした。同社は、コンクリート構造物のはく落を防止し、構造そのものを強固に補強する「スケルトンはく落防災コーティング技術」を確立していました。
今回の共同開発では、この透明な特殊コーティング材を用いて、村田製作所のガラス管RFIDデバイスをコンクリート構造物の表面へ完全に包み込み、一体化させて固定(結着)する実装方法を確立したのです。これにより、以下の2つの決定的なメリットが生まれました。
完璧な物理的保護:
屋外の厳しい環境(雨、風、直射日光、温度変化)から繊細なデバイスを完全に密閉・保護し、
インフラ寿命と同等の長期耐久性を与えることに成功しました。
アナログな安心感(目視確認)の維持:
コーティングが「完全に透明(スケルトン)」であるため、RFIDリーダーが通信異常を検知した際、
人間の点検員が現地へ赴き、実際にひび割れの状況を「肉眼で直接確認」することが可能です。
デジタルな監視とアナログな検証を高い次元で両立させました。
徹底解説 状態・異常検知システムの「6つの強み」
両社の技術が融合した「状態・異常検知システム」には、従来のモニタリング技術を過去の物にするほどの圧倒的な強みが6つ存在します。
電源・配線の完全不要
電波のエネルギーで動くパッシブRFIDを採用。電源の引き込み工事や、数年ごとの電池交換が不要なため、究極の「メンテナンスフリー運用」を可能にします。
圧倒的な低コスト性
高価な計測機器や信号処理装置を並べる必要がなく、システム構成が極めてシンプル。初期費用およびランニングコストを大幅に圧縮できます。
1mm未満の微細検知
封入するガラス管にあらかじめ特殊な「スリット加工」を施しておくことで、どの程度の力で割れるかの「検知閾値」を自在にコントロール可能。1mm未満の微細な初期クラックも見逃しません。
建造物を選ばない汎用性
コンクリート構造物(トンネル、橋梁)はもちろんのこと、民間建築の「外壁タイル」「サイディング」「モルタル」といった建築外装材の浮きや剥離の検知にも幅広く対応します。
湿度センサーによる予兆検知
ガラス管内部にRFIDタグと「湿度センサー」を併設。ガラス管が完全に割れて通信が途絶する前の段階、すなわち「目に見えない微細な亀裂から湿気や水分が入り込んだ瞬間」を捉え、大事故になる前の超早期ステージで異常兆候をキャッチできます。
損傷位置の瞬時ピンポイント特定
数万個のタグを並べても、各タグには世界で唯一の「固有の識別番号(ID)」が割り振られています。どのIDの応答が変化したかをデータベースと照合するだけで、広大な構造物の「どのピンポイントに異常が出たか」が即座に分かります。
異常発生を逃さない「4段階の検知フロー」
実際にシステムが構造物の異常を検知し、管理者に知らせるまでのプロセスは、以下の通り極めてシンプルかつ合理的です。
ステップ①:平常時
透明なコーティング内に保護されたRFIDタグの通信は正常。リーダーの巡回や固定アンテナからの無線通信に、正常な応答を返し続けます。
ステップ②:ひび割れ発生
構造物の劣化や地震等により、許容値を超えるひび割れや変位が発生。その強力な応力が、一体化されたガラス管へダイレクトに伝達されます。
ステップ③:ガラス管の破損
応力に耐えかねてガラス管が破損。割れた隙間から外気や水分(湿気)が内部へ侵入し、内蔵されたタグの通信環境や電気特性が変化します。
ステップ④:通信変化を検知
定期巡回するRFIDリーダー(または自動ドローン等)が、その通信特性の変化や応答途絶を検知。システム(読取機)が「異常あり」と瞬時に判定します。

今後の展望 今期中の実証実験と広がるビジネスチャンス
エムビーエス社の発表によると、この新技術はすでに研究室レベルの段階を終え、いよいよ社会実装に向けた最終フェーズに突入しています。今期(2027年5月期)中を目途に、実際のインフラ構造物や民間建築物を用いた「実証実験(フィールドテスト)」を開始するとのことです。
これが本格的に実用化されれば、例えばドローンにRFIDリーダーを搭載してトンネル内を飛行させるだけで、人間が近づけない高所のひび割れを一瞬でスクリーニングするような、超効率的な次世代インフラ保守点検サービスが誕生することになります。
2027年5月期の業績への直接的な影響は現時点では軽微とされていますが、来期以降、中長期的な収益の柱へと成長する可能性を大いに秘めています。ストック型のインフラ監視ビジネス、あるいはマンション等の外壁補修診断市場への参入など、同社のビジネスモデルを大きく進化させる起爆剤になることは間違いないでしょう。
資料引用:エムビーエス
おわりに
デジタルとアナログが融合する「次世代の国土強靭化」へ
「ハイテクな電子部品」と「現場仕込みの機能性塗料」。一見すると全く異なる領域にある2つの技術が、それぞれの弱点を補い合うことで誕生したこの異常検知システムは、まさにオープンイノベーションの見事な結実と言えます。
インフラDXを成功させる鍵は、いかに「現場に負担をかけないシンプルな仕組みにするか」にあります。その意味で、電源を持たず、配線もいらず、割れることで危機を知らせるこのシステムは、これからの日本、ひいては世界中の老朽化インフラを救う救世主となる可能性を秘めています。実証実験の進展と、今後の本格的な商業化ニュースから目が離せません!
【リリースニュース配信元】
□株式会社エムビーエス
https://www.homemakeup.co.jp/
プレスリリース(2026年6月17日発表分)