株式会社奥村組(本社:大阪市阿倍野区、代表取締役社長:奥村 太加典、以下、「奥村組」)と奥村機械製作株式会社(本社:大阪市西淀川区、代表取締役社長:村中 浩昭)は、昨年開発した遠隔操作システムの安全性と操作性を向上させる機能改修を行い、奥村組技術研究所(茨城県つくば市)から台湾・桃園市で稼働中のシールドマシンの遠隔操作を実施というリリースニュースをおとどけします。
臨場感の高いコックピットとセキュアな操作環境

遠隔操作用コックピット

管理用モニター

操作用タッチパネル

シールドマシン遠隔操作状況(日本側)
背景
シールドトンネル工事に用いるシールドマシンは、専門知識と操作方法を熟知したオペレーターが現地で運転操作を行いますが、日本と台湾のいずれにおいても、技能労働者の高齢化や入職者の減少などにより、熟練オペレーター不足が深刻化しています。
そこで、奥村組と奥村機械製作は、国内外を問わず、シールドマシンを遠隔地から運転できるシステムの開発に着手しました。
本システムの導入により、熟練オペレーターが各現場に常駐する必要がなくなるほか、将来的には複数現場の兼務が可能となることが期待できるため、深刻化する熟練オペレーター不足に対応することができます。
昨年は、日本からインターネット経由で台湾に設置されたシールドマシン制御用コンピューターに接続し、シールドマシンの各機構の操作における応答性の検証と通信タイムラグの確認を行いました※1。
システムの概要
本システムは、インターネット環境下であれば、全てのシールドトンネル工事で遠隔操作を可能とするものです。
今回の改修により、システム利用者のアカウント認証に二要素認証(MFA)を実装したほか、ログ管理を徹底するなどの運用ルールを策定したことで、これまで以上にセキュアな操作環境※2を構築しました。
また、臨場感を高めたコックピット※3を導入し、現場の状況をより把握しやすくするとともに、実際の運転席と同様に配置したタッチパネル式操作スイッチと各種モニターを備えることで、シールドマシンの操作経験者であれば、特別な訓練を必要とせず操作できる仕様としました。
なお、万が一通信エラーが生じた際には早急に対応できるよう、通信エラーの検知システムを備えています。
現場での遠隔操作結果
茨城県つくば市内の奥村組技術研究所に設置したコックピットから、インターネット経由で台湾・桃園市のシールドマシンに接続し、シールド工法の主要機構(掘削、推進、排土)を操作することで、シールド掘進を遠隔で実施しました。
その結果、従来の遠隔操作システムと比較して操作性が向上し、日本と台湾間における通信エラーも問題なく検知できることを確認しました。
セキュアな操作環境下において、遠隔地でも現地と遜色なく操作できることで、従来のシステムよりも安全性が大幅に向上します。

遠隔操作状況の確認(台湾側)

遠隔操作したシールドマシン

シールド掘進時の坑内状況
今後の展開
今後は、遠隔操作中に通信エラーが発生した際に、シールドマシンを安全に停止できる機構を実装し、より安全性の高い遠隔操作システムの構築を目指します。さらに、1箇所から複数現場を遠隔操作できる機能や、操作スイッチや現地状況を把握するモニター類を仮想空間上に再現し、XRゴーグル※4を用いて場所や設備に依存せず遠隔操作が可能となるシステムの開発を進めていきます。
加えて、遠隔操作技術を教育・訓練用途にも活用し、技術者・オペレーターの育成に取り組んでいきます。
※1:
2025年2月7日ニュースリリース https://www.okumuragumi.co.jp/newsrelease/2025/1800km.html
※2:
本操作環境は、セキュリティの方針策定から具体的な対策の実行までを一貫して支える枠組みとして、世界的に広く採用されている「 NIST Cyber Security Framework(米国標準技術研究所 サイバーセキュリティフレームワーク)」および「CIS Controls バージョン8」を参考に構築し、外部監査を受けています。
※3:
ドーム型モニターを設置し、現地の音声と映像をリアルタイムに再現することで、臨場感の高い操作環境を実現しています。
※4:
XRを投影できるゴーグル型デバイス。XRとはVR(Virtual Reality 仮想現実)、AR(Augmented Reality 拡張現実)、MR(Mixed Reality 複合現実)などの技術の総称
資料引用:奥村組
おわりに
建設DXの地平と「フィジカルAI」への胎動
今回の奥村組による日本〜台湾間でのシールドマシン遠隔操作の成功は、建設業界におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)の極めて重要なマイルストーンです。
リリースが示す通り、このシステムの核心は、長距離を感じさせない「臨場感の高いコックピット」と、NIST基準に準拠した「高度なセキュリティ」の確立にあります。
熟練オペレーター不足という喫緊の課題に対し、国境を越えた技術投入を可能にするこの成果は、まずは「人の能力を拡張し、場所の制約を無効化する」現実的な解決策として大きな価値を持ちます。
しかし、このニュースをさらに一歩踏み込んで捉えるならば、ここから「フィジカルAI(物理空間で自律的に動くAI)」の実装へと繋がる壮大な可能性が見えてきます。
リリース自体は人による遠隔操作の成功を報じたものですが、そこで実現された高精度な操作環境は、裏を返せば、AIが物理世界を学習するために必要な「極めて純度の高いデータ」を収集できるプラットフォームが整ったことを意味するからです。
熟練オペレーターの細かな判断とマシンの挙動が、セキュアな環境下でリアルタイムに同期・記録される。このプロセスで蓄積されるデータは、AIが「現場の勘」を学び、自律的に物理的な動きを制御するフィジカルAIへと進化するための、何物にも代えがたい教師データとなります。
将来的にXRやデジタルツインでの再現が進めば、AIは仮想空間で何万回もの試行錯誤を繰り返し、現場投入の瞬間から「熟練の知能」を備えた自律型重機として稼働することも、もはや空想ではありません。
今回の成果は、あくまで「遠隔操作」という手段の確立ですが、その先に見据えるべきは、物理的な質量と高度な知性が融合する「建設現場の自律化」という新時代です。
テクノロジーによって物理的な制約が取り払われ、建設現場が「苦渋作業の場」から「高度な知性が調和する空間」へとアップデートされていく。
その大きなうねりの始まりを、今回のニュースは示唆しているようにも感じました。
【リリースニュース配信元】
□株式会社 奥村組
技術本部 技術研究所 企画管理グループ
リリースニュース:
https://www.okumuragumi.co.jp/newsrelease/2026/post-73.html
TEL:029-865-1521
FAX:029-865-1522
E-mail:giken@okumuragumi.jp
【開発担当】
株式会社 奥村組
土木本部 土木設計部 設計4課
深見 誠(ふかみ まこと)